少し前に書いた続きです。
前回書いたものは、話がどんどん横道にそれ(私の文章ではいつもの事ですが)音楽・文化のあり方みたいな話になってまとまりのないまま終わりました。
要約すれば、未成熟の文化は、それを定着させるためにどのような努力をするべきか。ファンを拡大するために何をしなければならないか、という話です。
オーケストラ・オペラ・バレエ、といった、いわゆる「クラシック」と呼ばれ、またそれに関連するもので、劇場のステージでパフォーマンスによって興行する業界は、欧米との差異として、料金(税金の投入や補助金の問題が大きい)開演時間(職場と家と劇場の位置関係。食事の時間。帰宅にかかる時間)等を工夫しなければならない。また、一般的に「難解で敷居が高い」といわれるなら、解りやすく、解説をして親しみやすくする工夫が必要。しかし、あくまで本物で勝負(オーケストラでポップスを演ってお茶を濁すのではなく=あくまで、本業で勝負って意味です。ポップスが嫌いとか軽く見てるとかではない。BostonPopsOrchなんて私は大好きです!念のため)して、この程度の事をやっていれば客はついてくるだろうなんて、上から目線はもってのほか。ファンに愛されるよう、演奏者側も努力する。・・・というようなことを書いたのです。
「すいぎょくオペラ」は、こういう事を全部考えて企画されたものでした。
しかも、先日、偶然見つけたInernet上の公開質問コーナーの記事に「すいぎょくオペラ」は今どこに?みたいな投稿があって、ああ、覚えていて下さるお客様もいらっしゃるんだ!となんだか懐かしく感動も覚えました。
そこに、前回書いた「オペラのS席が¥52,000!」・・・。なんだか「こういう事をやっていたんだ!」という事を書き残しておこうと思った訳です。
板橋の住宅地にある一軒家レストラン「仏蘭西舎すいぎょく」。今は、結婚式やパーティーも出来るレストランとして有名です。ここのオーナーは私の大学時代の先輩でOboeを演奏します。まだ若かったある日、何かでオーナーのK野氏(彼もレストラン経営をするまではプロ奏者として楽器を演奏していました)と話をしている折、前記のような事を私が言い出し、賛同してくれたK野先輩は、ウチで何か出来ないだろうか?という話になりました。彼もまだ若く、こだわりを持って作った木造の「響きの良い」お店で「音楽」的な文化発信を何かやりたいと思っていたようです。コンサート付きのランチ企画等もよく開催されていて、そちらにも何度か出演しました。
それで、オペラの企画はどうかという話になり、以下の様なオペラを制作しようと話がまとまりました。
*せっかくレストランでやるのだから、食事を楽しんだ後、観劇する(仕事帰りにお腹を空かせて会場に飛び込み、お腹のなる音が隣の人に聴こえないか気にしながら・・では楽しめない。しかも、適度に酔っぱらって聴いてもらえば、少々のミスは気にならない筈!←演者側としては、とても良い所に気がつきました◎)
*話の筋に問題ない程度にカットを行い、初めてみるお客さんでも、退屈せずに、見て貰えるように配慮する。もちろん帰りの電車の時間も考慮に入れて。(オペラって普通に見に行くと4時間くらいかかるのです)
*舞台装置も衣装も、簡素でも良いので、出来る限りきちんと考え、手をかけて、見た目に貧相なオペラにはならないようにする。
*開演前に話の筋を演奏者が解説する。それもありきたりの(NH某のような、これは○×△を表したアリアで〜〜等という)話は絶対にしないで、とにかく話の筋に興味を持ってもらえるように。関西人の私の話術を駆使して!
*もちろん、MENUの裏にも、ありきたりではない解説文を付ける。
*字幕スーパーなどには頼らず、お客さんに心がストレートに伝わるよう「日本語で上演」する。(これは歌い手からはすごく嫌がられましたが、当時のドイツではプレミア(初日)は原語、それ以外はドイツ語上演という形で、超有名3大劇場以外の殆どのオペラハウスで行われていた事です)
*出演者も、オペラファン拡大のために、ギャラは少なくても我慢してもらう。もちろん私も。レストランも利幅を下げて食事の料金を安くしてもらい、フルコースディナー付きで¥8,000という価格設定にしました。(←これでも高いなあ!とは思っていたのですけど。当時はバブル末期でしたし、まあまあかと・・。今ならもっと安くしたでしょう。)
出演者にも以上のコンセプトを理解してもらい、解ってくれる人のみに出演してもらいましたので、舞台と客席の空気感もとても良い、素敵な時間になりました。
もちろん、最初は手探りでしたから、至らない事もたくさんありましたが、どんどん進化して、舞台装置も、当時のすいぎょくの従業員の皆さんが積極的に手伝ってくれ、とてもレストランでやっているとは思えない立派なものになりました。ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家なんて、今でもはっきり目に浮かぶほど可愛い家でした。(記録VIDEOは一応残っています。写真が見つかったら後日アップします)
大劇場と違い、ホントに手の届く所で皆が演じているのです。しかも客は「ほろ酔い加減」で、機嫌もよく少々の事は大目に見てくれる・・←おいおい! 笑いも涙も、客席と演奏者がともに創りあげる、気持ちのよい一体感のある空間でした。
このオペラで、企画、曲のカットと編曲、指揮、前説、解説文・・と八面六臂の活躍をして、数々の成功を収めてきた(←自分で言うか!?)のが私です。
ふっふっふ!格好エーやん。
モーツァルト「魔笛」、ヴェルディー「椿姫」、プッチーニ「蝶々夫人」、フンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」などなど、複数回公演したものもあるので年2回の公演を5年ほど続けました。お客さんからの評判もよく、リピーター率の高い公演で(←これ重要!)、たくさんの激励のお手紙も頂戴しました。中には「今日のオペラを観るためにウィーン国立歌劇場のビデオを見て予習してきました」等というものもあり「予習すんなよ・・特にウィーンとかはやめて!」という出演者から悲鳴の上がる様なものまで・・・(笑) テレビや雑誌などあちこちから取材も受けました。こちらは、まあ、殆どK野氏に任せましたけど。
まだまだ続けたかったのですが、経費がかかりすぎるから(バブルも終わったし)という理由で、一旦休止のまま、現在まで時が流れてしまいました。
久しぶりに、あの時の仲間とまたオペラが演りたくなりました。「こうもり」と「ジャンニスキッキ」の二大爆笑ものなんてどうかなあ?